« 2005年4月 | トップページ | 2005年6月 »

リセット 北村薫著

時間と人間をテーマにした3部作の1作。芦屋のお嬢様学校にかよう真澄は、一緒にカルタ遊びをした、友人のいとこ修一に淡い恋心を抱くようになった。時代は、戦争の影が日々色濃くなっていく1940年代、飛行艇の製作工場で再会した二人は互いに思いを募らせていく。しかし、ある日工場は集中砲火にあい、二人の恋は修一の死によって無惨な終わりを告げたかに見えた。生き残った真澄は独身を貫き、子供向けのほんの出版社で働きはじめた。本の需要を探るため、小学生相手に本を貸しはじめた真澄は、そこで出会った6年生の村上君の中に、修一の姿を認めるようになる。

  いつもながら男性の作者がこれほどリアルな少女像を描くことができるのが不思議でならない。はじめ、作者はてっきり女性だと思っていた。
 3部作の中では、時間が流れずに同じところをぐるぐる回り続ける世界に閉じ込められた女性を描く「ターン」が一番面白かったが、作品のテーマ自体はこちらのほうが壮大かもしれない。ただ、残り三分の一あたりから一気に話が展開するが、それまではテンポがとてもゆっくりしており少々だれてしまうのが残念。輪廻思想的なものも入ってくるため、共感しづらい人もいるかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

お道具箱 クィックショナリー

洋書を読む時に便利そうな気がして、買ったのがこれ。スキャナーのついたペン型の辞書です。スキャナーで単語をなぞると液晶部分に訳が表示されます。今よりもさらに洋書が読めなかった頃に買ったものです。これさえあれば、洋書もすらすら!という過大な期待を抱いて購入しましたが、そもそも単語力以前の段階だったので、最近までタンスの肥やしになっていました。
 洋書を読んでいる時に辞書を引くと、思考の流れが中断され、読むスピードが極端に落ちてしまいます。あまり度々ひいていると読む気力も減退です。このお道具を使うとそんな悩みも解消!!のはずだったのですが、読み込みの速度が遅く、結局流れが止まってしまうことに。しかも、スキャンの仕方になれるまでは、読み込むことすらできなかったりします。最新機種はきっと改善されていることと思いますが。読み込みスピードさえ速ければかなり使えそうです。
 最近また引っ張り出して使っています。遅くていらいらするので、普段は普通の電子辞書を使い、就寝前の読書の時にだけこちらを使っています。寝っ転がって自堕落に読めるのが便利…かな。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

ゴッホ展

絵が好きなので、たまに美術館に行きます。今回は同じく絵が好きな友人たちとゴッホ展に行ってきました。
行ってみてびっくり。愛知万博に引き続き、またもや人ごみです。今までいろんな展覧会に行きましたが、こんなに混んでいるのは初めてでした。まず、入場するまでに80分待ち。中に入ったら入ったで、どの絵も黒山の人だかり。絵に近づくことさえ困難で、やっと近くに行けたと思ったら今度はそこから抜け出せなくなる始末。
客層も何だかいつもと違い、どちらかというと愛知万博などの客層に近い感じでした。
子連れのお母さんが、絵に見入っている子どもに向かって、「そんなの見てないで、もっと有名な絵を見なさい!時間ないんだから!」と叱りつけてたりして、それはちがうだろーっっと突っ込みを入れたくなりました。
 
 絵のほうは、言うまでもなく素晴らしかったです。目玉になっていた「夜のカフェテリア」も中学生くらいのころから好きで、当時永谷園のお茶漬けについていた、おまけのカード(世界の名画がカードになっていました)を大事に取っておいたものですが、今回、新たに好きになったのが、「夜」という作品でした。ゴッホがミレーの作品を模写したものです。ミレーが描くのは、華やかな世界とは無縁な、ごく普通の農民たちのごく日常的な生活です。けれど、その中で描かれる彼らの姿は、生半可な宗教画に描かれる聖人たちよりもずっと気高く、絵の中には荘厳な空気が満ちています。ミレーの絵を見ていていつも思い出すのは、敬虔な祈りという言葉です。生きていること、食べられること、働けること、そんな当たり前に思えることすべてに感謝して、一日一日を当たり前に、大事に生きる。
 「夜」もそんなミレーの作品らしく、貧しい農家の夫婦が、暖炉の前で一日の終りのひと時を過ごしているという、ごく日常的な光景です。それをゴッホが描くとどうなるか。ミレーの絵がもつ荘厳さを思いっきり高濃度で抽出したといった感じでした。暖炉からあふれ出す光は、神々しいばかり。眩しい……あまりの迫力に友人としばし立ちすくみました。友人は、閉館直前の激しい人ごみにもめげず、最後にもう一度会いに行ったそうです。
また会いたい絵です。願わくば、もう少し人のいないところで。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

おととい、翻訳の授業でした。今回の反省

愛知博ツアーで時間がなかったため、今回はとくにふんばりがきいていません。訳語選択の詰めがところどころ甘くなっています。
 Fuck hard workを「勤勉なんてくそくらえ」と訳してしまいましたが、「勤勉」はこの作者の文体にもこの文脈にもあっていません。深く考えず辞書の単語を羅列するのでは、とても翻訳とはよべません。 ほかにも多数。

 なんとなく日本語になっただけで満足してしまわないこと。訳しているのが小説である以上、本好きの目の肥えた読者たちを満足させる文章でなければ、使い物にはなりません。実際、一読者として、文体の拙さに閉口し、本を置いた経験が何度もあります。

 作者の思考の流れをしっかりと辿り、理解すること。作家が文章を書くときは、必ず、心から湧き出している感情があります。それを感じ取ることができないようでは、訳者どころか、読者にさえなれていない。まずは、良き読者となること。

 

| | コメント (4) | トラックバック (1)

愛知博に行ってきました

先週金曜日、休暇をとって愛知博に行きました。特に父が興味を持っており、名古屋に妹も住んでおりますので、親孝行もかねて行ってきました。いやー、混みこみですね。3時間待ちはざらです。平日のせいか、高齢者の方々が多いのに驚きました。しかも、みんな元気。3時間待ちにもめげず、うきうきした様子で、「次どこ行くー?」と、目一杯予定を詰め込んでいました。私たちよりよっぽど元気かも。
 楽しみにしていた万華鏡も無事見ることができました。確かに綺麗は綺麗でしたが、一時間以上待って見るとちょっとばかりあっけなかったです。かえって、ノーチェックだった、電力館のワンダーサーカスのほうが、幻想的で、満足感が高かったです。列車にのり万華鏡のような世界に向かって出発するのですが、その後も宇宙空間に移動したり、日本の四季折々を堪能したり、なかなかでした。愛知博にお出かけの際には、おすすめです。あまり、並んでもなかったですし。
 土曜日の夕方に戻ってきたので、今回も、翻訳ゼミの課題にあまり時間がかけられませんでした。(言い訳です。)相変わらず、難解。今やっている作家の英文は、一文一文が短くて、一見訳しやすそうなのですが、文が短い分、判断材料も少ないため、見誤るととんでもない方向へ訳文が走っていきます。単語が全部分かっていても読めない英文があるとは、この作家の文を読むまでは知りませんでした。次回こそはもっと時間をかけて、しっかり調べ物もして訳出したいものです。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

ようやく一冊読破

今年に入ってはじめて一冊読了。同時進行で読んでいた本ではなく、一番最近(4月末)買った本が最初に終わりました。児童書で難易度的にかなり易しかったため、抵抗感なく読めたのと、内容的に面白かったおかげです。面白いと、先が気になってページ数など気にする間もなくどんどん読み進めて行くことができます。よく言われることですが、多読速読のためには面白い本(自分にとって)が一番ですね。

 読み終わったのは"The stolen" アレックス・シアラー著 です。大仰に読破と言うほど難しい本ではありません・・・(^_^;)。主人公はカーリーという赤毛の女の子。自分の容姿にコンプレックスを持っています。誕生を心待ちにしていた妹の死が、カーリーをはじめ、カーリーの家族全員に影を落としています。失った穴を埋めるように親友を求めるカーリー。そんな彼女の前に、背が高くほっそりとした転校生メレディスが現れます。しかし、メレディスには何もかもが退屈でたまらない様子。友達など作る気がない、はやく時間が過ぎて欲しいと言い放ちます。
 まるで子供らしくないメレディスの振る舞いにカーリーの興味はかき立てられていきます。そんなとき、カーリーは、メレディスを毎日迎えにくるおばあさんから、信じられないような話を聞かされます。
 メレディスは本当は年老いた魔女で、自分こそ正真正銘の10歳のメレディスだ、魔女に体を乗っ取られたのだと言うのです。にわかには信じがたい話に、おばあさんの正気を疑うカーリーですが、その言葉を裏付けるような出来事が次々と起こり……。

どんでん返しに驚かされます。子どもをこんなに驚かせてもいいのでしょうか?ちょっと生意気なところが魅力のカーリー。訳すとしたらどんな感じになるんだろうと思いながら読んでいました。易しい本ではありましたが、訳すのはかなり難しそうです。私の苦手な会話も山盛りですし。邦訳が出ているので、買ってみようと思います。訳者は金原瑞人さん。期待できそうです。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

マドンナ 奥田英朗著

普通のサラリーマンたちの日常生活における苦悩や葛藤を等身大に描いた短編集。直木賞をとった「空中ブランコ」より、こちらのほうが個人的には好み。「ダンス」が特によかった。主人公芳雄は46歳のサラリーマン。高校卒業を控えた息子が大学に行かないと言いだした。どっぷりとサラリーマン社会に浸っている芳雄には、ダンサーになると言い出した息子の気持ちが分からない。同期入社、浅野課長の、上司におもねることのない自由奔放な態度が、息子とだぶってみえるようになる。浅野にいらだちを感じながらも、つきはなすことができない芳雄。そんなとき、恒例の社内運動会が開催されることとなった。全員出席の暗黙の了解がある中、浅野は出席を拒む。浅野の行動は部長の怒りを買い、見かねた芳雄が説得を買って出る。はたして浅野は運動会に出てくるのか。

よい作品をよむと心の中で化学反応が起こる気がします。じっとしていられなくて、うろうろ歩き回ってしまったりして。芳雄の微妙な心の変化がリアルに描かれていて、深く共感することができました。味わいのある作品。芳雄に喝采をおくりたくなりました。

 パティオに、毎日読書にやってくる魅力的な老人と、パティオに隣接したビルから、老人を父と重ねて温かい目でみつめるサラリーマンを描いた「パティオ」もおすすめ。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

お道具箱 ほんたった

翻訳クラスのほかにも、自習で、原書と訳書の読み比べをしていますが、
二冊の本を同時に開きながら辞書引くって、意外に大変です。洋書のほうを開いていると、訳書の方が閉じてしまったりしていらいらさせられます。重しで押さえても、新しい本だと抵抗力も強く、すぐ閉じてしまいます。こんなときに重宝するのが、「ほんたった」。その名のとおり、本を立たせるお道具です。書見台のようなものですね。ネットで見つけてその場で購入を決定。今は快適に読み比べ生活を送っています。髪を乾かしながらも読めてしまうので、すきま時間の活用にも有効。もちろん、普通に読書するのにも、もってこいです。(というか、そもそもそっちの目的で作られたものだと思いますが)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2005年4月 | トップページ | 2005年6月 »