« 2005年6月 | トップページ | 2005年8月 »

ねむりねずみ 近藤史恵著

 人気歌舞伎役者小川半四郎の婚約者が、舞台の最中、謎の死を遂げた。深々と胸に包丁を突き立て、ふくら雀に笹雪の着物を赤々と染めた姿は、まるで舞台の一場面のように美しかったという。大部屋の女形小菊は友人の探偵今泉に手を貸し、事件解明へと乗り出していく。
 一方、小菊の視点で展開していくストーリーとは別に、若手女形、中村銀弥の妻一子を視点としたストーリーが進行していく。 銀弥の凄まじいばかりの才能に惹かれて一緒になった一子。しかし、夫の情熱と才能はすべて舞台の上に注がれていた。舞台の上でのみ生き、あとは眠っているような夫に対し、一子はしだいに心寒いものを感じるようになり、別の男性へと心惹かれていく。そんなとき、銀弥の身に異変が生じる。頭からことばが抜け落ちていく……。失語症。役者生命をもおびやかす異変に、一子の心は大きく揺れる。
 小菊と、一子の二つのストーリーが一点で交わる時、意外な真相が明らかに……。

 銀弥の舞台にかける壮絶な執念。単純には割り切れない一子の女心。大部屋俳優小菊の舞台への切ない思い。 梨園をめぐる人々の思いが鮮やかに描かれて、ストーリー全体が一幅の艶やかな絵のようだ。
充実した時間を約束してくれる作品。 あえて難をあげるとすれば、魅力的なワトソン、小菊にたいして、探偵役今泉が薄いこと、くらいだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ななつのこ・魔法飛行 加納朋子著

作者は、「慟哭」を書いた貫井徳郎氏の奥さん。やはり才能と才能は惹かれあうのでしょうか。
主人公は19歳の女子大生入江駒子。瑞々しい視点で、何気ない日常に潜む謎を切り出していきます。
 「ななつのこ」とは駒子が衝動買いしてしまった本の題名。駒子と「ななつのこ」の作者佐伯綾子との往復書簡の形で物語は進んでいきます。佐伯綾子の作品「ななつのこ」は、主人公の男の子の生活に潜む小さな謎を、あやめさんという女性が解決するというストーリーですが、本作品ではそれとリンクするような謎を駒子が自分の日常の中から切り出し、今度は作者の佐伯綾子が探偵役となって解決していく、という入れ子のような構造になっています。
 「魔法飛行」では駒子が自ら物語を書き、前作で知り合った星好きの青年、瀬尾さんに読んでもらうという、同じく往復書簡形式になっています。今度の探偵役は瀬尾さん。
「魔法飛行」では、温かく叙情的な手紙のやり取りの中に、冷たい氷のような、不安を掻き立てる謎の手紙が投げ込まれ、不協和音を奏でています。前作よりもサスペンス色が強くでています。

 北村薫さんを思わせる叙情性豊かな女性らしい(北村さんは男性ですが)文章、視点で、読んでいて安らぎました。作品中で、昔流行った曲や、テレビ番組として描かれているものを見ると、作者はどうも同世代の方らしく、そういう意味でも深く共感でき、楽しめました。若いころの感性を強く刺激してくれる作品です。作者がこの作品を書いた年は23、24歳とのこと。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

お道具箱 ソニーノイズキャンセリングヘッドホンMDR-NC50

その名の通り、周りの騒音をキャンセルしてくれるというヘッドホンです。階上に激しい足音の人が越してきてしまったので、購入しました。これをつけたら、集中力があがるかも・・・という淡い期待もありました。
単体で使用するとあんまり効いている気がしませんでしたが、耳栓と併用するとかなり効果的です。深海魚になった気分。自分の心臓の音がよく聞こえます。
で、静かになってみて思いましたが、あんまり静か過ぎると人は集中できないものなんですね。なんだか落ち着かなくて。
性能には満足できましたが、問題はこの重さ。290グラムというとたいしたことはなさそうですが、長時間となると話は別です。首ががっしりしている方ではないので、重さに耐えられず首が痛くなってしまいました。今は時間を区切りながら使っています。

高くてもBoze社の方(ずっと軽い)を買っておけばよかった……。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

しばらく自習

翻訳のクラスが8月末までお休みになったので、しばらく独学です。
時間があるのでいろいろチャレンジしたいと思っています。
とりあえず、先日は会員になっているアメリアのスペシャルトライアルを受けてみました。
絵本の下訳のトライアルでした。昔から、興味があり、大学時代も童話研究サークルに入っていた私としては、ぜひぜひ、やってみたい!というわけで、チャレンジしてみました。
しかし、絵本や童話というのは英語的にやさしいだけに、純粋に日本語センスの問題になってきますので、翻訳としてはかなり難しい分野なのではないかと思います。子ども向けの文章の書き方も勉強したほうがよさそうですし。いつもは熟語で済ませてしまっていた言葉も、分かりやすい言葉に変えたりしなければいけません。どこまで子どもの目線に合わせるか、といったさじ加減が難しいですよね。
でも、自分が子どものころのことを考えると、意外と大人の本でも、分からなければ分からないなりに楽しんで読んでいた気もします。(13歳くらいのころ親の持っていたシェイクスピア全集などを引っ張り出して読んでいました。訳も古く、難しい言葉が多かったはずですが、けっこう楽しんでいた気がします)
そう考えるとあまり子どもにこびる様な文章にしてしまってもしょうがないし・・・・・・。難しいですねー。

今はおなじくアメリアの定例トライアルに取り組んでいる最中です。(といいつつ、ブログに寄り道してますが)
ノンフィクションなので調べ物が命です。自分はつい調べ物をおろそかにしがちなので鍛錬の意味をこめて。(好きな方だとおもっていたのですが、翻訳クラスの方々を見ているとまだまだ甘いことを痛感しました)
 ソーラーカーの大会についての文章なのですが、調べ物をしているといろいろ面白いものを見つけてしまって、ついついあちこち寄り道をしてしまいます。
 初めての大会に出場したある日本人チームはスタートから1ヶ月もたってからゴールしたんだそうです。大会があったことさえ思い出になりかけていたころにようやくゴールということで、地元ではちょっとしたニュースになったようです。昔の日本人って本当に堅実というか、根性ありますね。こういう人たちが日本の成長を支えてきたのねーとしみじみ思いました。私も見習いたいものです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

半落ち 横山秀夫著

妻を自らの手にかけた警察官、梶警部が自首をしてきたことで、警察、検察、裁判所、そして世間は大きく揺れていた。
動機は明白だった。50前の若さでアルツハイマーを発症した梶の妻は、ついに、白血病で亡くした息子の命日さえも忘れてしまうまでになっていたのだ。梶警部は、取調べで、「母親でいられるうちに死なせて欲しい」と妻に懇願され手をかけたこと告白するが、殺害後自首までの2日間の行動については口をつぐんでいた。
空白の2日間。捜査官、検察官、新聞記者、弁護士らがそれぞれの立場からこの2日間の解明に乗り出していくが……。
 人を殺したとは思えない、美しく澄んだ梶の瞳。その瞳に魅入られたかのように、梶警部をめぐる人間たちは、自らの内面をも振り返るようになる。
梶警部を描くと同時に、梶をめぐる6人の男たちをも、えぐる様に克明に描き出している。
 寺尾聰主演の映画「半落ち」の原作。殺人物とは思えない美しい内容。梶警部があまりにいい人なのに、ちょっと違和感を覚えてしまった。いろいろ読んで擦れてきてしまったのかなあ…。
でも、周りの人間を掻き立て、変えていくほどの存在なのだから、このくらいに描く必要はあるんでしょうね。

 美しいといえば、この作者の文章。日本の伝統芸能、能や、茶の湯を思わせるような静謐な美しさが漂う。見事なまでに無駄の無い文章は、翻訳を学ぶ上でもぜひ模範としたい。この作品があまりにも有名ではあるが、文の美しさという点では短編のほうが際立つ感がある。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

ねこのばば 畠中恵著

薬酒問屋の病弱な若旦那と、若旦那を守る妖怪達を描いた、時代物ミステリー(ファンタジー?ジャンル分けが難しい本です。)。シリーズ3作目。
相変わらず病弱ではあるが、冴えた頭脳で謎を解いていく若旦那。
読者を驚かせる罠も仕掛けられており、ミステリーとして一段とレベルアップした感がある。
内容的にもさらに深みを増しており、今後も楽しみなシリーズだ。
「選ぶべき答えは、全て泣きたくなるようなものばかり。でも、どれかの答えを選ばないわけにはいかないのだ。選ばないこともまた、1つの選択になってしまうから。」若旦那のせりふが胸に沁みる。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

やっと読み終わりました ダビンチ・コード

ついさっき、ようやく2冊目の洋書を読み終わりました。500ページ近くあるので、時間がかかってしまいました。面白かったー。大人向けの本でこれほどアドベンチャーの香りがする本っていうのも貴重ですよね。
子どものころに感じたような、秘密や謎に対する純粋な好奇心を思いっきり刺激してくれます。世界中でベストセラーになっているのも頷けます。
 とくに、聖書をベースに育ってきた西洋の人たちにとっては、衝撃的な内容なんだろうなーと思います。カトリック校に通っていただけの私でも、十分に目からウロコ体験を味わえました。
 西洋の文化的な基盤についてもたっぷり盛り込まれており、翻訳を学ぶ上でもいいお勉強になりそう。有名な絵画や、建造物が沢山出てきますので、美術ファンにとってもうれしい本です。現物の写真を見ながら読むとまたさらに楽しめそうです。
 サスペンスとしてももちろん秀作。視点は複数。登場人物それぞれの視点から描がかれています。ばらばらのストーリーが同時進行で進んでいき、結末に向けて一点へと一気に収斂されていきます。緊迫感があり、飽きさせません。英語で読んでいるのがもどかしいくらいでした。
 いわゆるジェットコースタームービー的なチープな内容の本だと、一度読めば十分ですが、この本はまた読んでみたいと思います。今度はゆっくりフランスのガイドブックでも見ながら読んでみたいですね。美術書も横において。

 英語的には、単語が驚くほど難しいですが(日本語に訳されていてもよく分からない)、割合すっきりしていて、俗語も省略も少ないので、日本人には読みやすい文章だと思います。ハリーポッターの5巻あたりが読める人なら筋は追えるのでは?かく言う私も筋を追っているだけに近い状態でしたが。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

« 2005年6月 | トップページ | 2005年8月 »