いつも、課題箇所しかせいぜい数ページ先くらいまでしか読んでいかない怠慢な私ですが、今回は、短編ということもあり、最後まで読んでから訳してみました。やっぱり読んでおいた方がいいですね。
おかげで、だいぶ誤訳を避けることが出来ました。読み終わってから訳しなおした箇所が数箇所。危なかったー。それでもまだ、主語を取り違えるという恥ずかしい間違いをおかしてしまいましたが。
お当番はいつも2人でやるのですが、これがまた心強くもあり、辛いところでもあります。どうしても二つの訳文を比較しながらの進行になりますから。一緒にお当番をした方はいつも緻密な調べ物をされる方で、先生が重要視されるポイントもしっかり掴んでおられるので、案の定、自分の未熟さに恥じ入ることとなりました。こちらはそもそも、ポイント自体どこかもわかっていなかったりするので。「いやあ、そんなこと考えてもいませんでした……」なんていう場面も幾度か。
それにしても、やはりお当番ともなると、いつも以上に中身が濃く感じられます。先生にご注意を頂いた各所には大事なエッセンスがたっぷりとつまっていました。
1 キャラクターをしっかり立ててから方向性を決めて訳す。
毎回書いているような気がしますが、まだまだ意識が行き届いていません。
同じsmileでもこの人物がこの場合smileするなら、「ニヤリ」の方が断然よいのですが、私はあっさり「笑った」としてしまいました。難しい箇所や、訳していてヤマ場と思われる場所ばかりに意識が集中し、細部をおろそかにしては駄目だなあと反省。
またしゃべらせ方もポイント。今回はナンパ男が、中年女性を手練手管で籠絡する場面だったのですが、この場合、白と黒に分けるなら、落とそうとしている男は「黒」で、何も知らない女は「白」です。
だとすれば、対比が際だつようにしゃべり方も考えなければいけません。「白」の女性は上品なしゃべり方の方が対比がくっきりします。私は、その女性にちょっとはすっぱなしゃべり方をさせてしまったため、男と同じ穴のムジナみたいな感じになってしまいました。
2 独りよがりになっていないか?意図は読者に伝わっているか?
ある場面で、he said casuallyという文に「淡々と言った」という訳をあてたのですが、先生は「冷ややか」にとされていました。個人的には「淡々と」にも冷ややかなイメージがあると思って使ったのですが、よくよく考えてみれば「淡々と」って「冷ややか」よりももっとニュートラルな感じですよね。
3 違和感のある直訳なら、削る勇気も必要
男性が女性の肘をつかんで退室を促すという場面を、「ひたと手を添え」という具合に訳したのですが、「ひたとに」当たるsteadyは訳出すると文から浮いてしまうので、ここでは削ったほうが違和感がないとのご指摘を受けました。確かに、たいして意味の無い語で、訳出すると読んでいてひっかかりがあるようなら削った方が読みやすいですよね。英文和訳をやっているのではなく、楽しむための小説を訳しているのだということを肝に銘じなければ。
4 状況をしっかり把握してから訳す。矛盾は無いか?位置関係など
訳しながら、登場人物の位置関係などを頭の中にしっかり思い描くこと。
ついつい、訳しただけで安心して場面を想像することを怠ってしまうのですが、結構これで失敗しているような気がします。頭の中で描けていない時は、誤訳していることも多いです。
しっかりと想像していれば、矛盾にも気が付きます。たとえば、振り向く前に言ったセリフは、振り向いてから見たものについて言及しているはずが無いのですが、きちんと場面を思い描いていないと、そういう矛盾した訳を当ててしまいかねません。
5 調べ物を怠らない
店の名前などの固有名詞が、英語以外の言語でも、ある程度、読み方や意味を調べないと駄目(当然!という声がどこからか聞こえてきそうですが)。うけねらいの名前が付いている場合もあり、結構重要だったりするので要注意。
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