« 2005年10月 | トップページ | 2005年12月 »

Basket Caseようやく読了

作者はカール・ハイアセンという人です。訳書と見比べながら読んでいたので、一年近くもかかってしまいました。訳書を一気に読んでしまいたいのをぐっと我慢して読み通しました。ほんとは自分でも訳してそれから訳書と照らし合わせるのが一番なのですが、残念ながらそこまでの根気はありませんでした。
訳書は「ロックンロール・ウィドー」。文春文庫から出ています。石田衣良氏のお勧め本です。わかるなーという感じです。テンポがよくて、会話もおしゃれで、石田衣良さんの作品にどことなく似ています。訳が難しそうな本です。へたな人が訳せば、このおしゃれな雰囲気はとても出てこないでしょう。
 
 カール・ハイアセンというひとの作り出すキャラクターはいつも一風変わっています。今回は死に対して病的な強迫観念を抱く中年の新聞記者、ジャックが主人公です。巨悪に屈しない敏腕記者でありながら、社のオーナーにはむかったために左遷され、よりによって死亡記事欄担当に回されてしまいます。そこでたまたま、ダイビング中に事故死したロック歌手ジミー・ストマの記事を担当することになったところから物語は始まります。ロック歌手には若い未亡人がおり、この未亡人、クリオがまた怪しげで、夫が亡くなったばかりだというのに家に若い男を連れ込んだり、夫の葬式で自分の歌のプロモーションまがいのことをしたり、やたらと急いで夫の遺体を火葬にしたりと、とにかく胡散臭い。一面記事の記者へ返り咲く機会を虎視眈々と狙っていたジャックは、ロック歌手の死が殺人であることを確信し、証拠を追い始めます。 

ジャック以外の登場人物もかなり個性豊かです。スワット隊員のコスプレでネットアイドル?をやっている、ジミーストマの妹ジャネット。髪を毎回度派手な色に染め替えて登場する、ぶっとび女子高生カーラは、ジャックの元恋人の娘。ジャックに若者文化を教授してくれる若き智恵袋です。27歳の上司エマは、一筋縄では扱えないジャックのせいで、ストレスを山のように抱えて胃薬を隠し持っています。

いわゆる謎解きを主眼にしたミステリではないので、犯人も、殺害方法もとりたてて目新しいものではありませんが、とにかくテンポが良くて、個性豊かなキャラクター達の繰り広げる世界が楽しい。読み終わる頃には皮肉やで、人の死んだ年ばかり気にしている、ちょっと偏執狂のジャックが好きになっています。読み終わるのが惜しい本です。

(英語的にはかなり難しかったです。文章自体は易しい方なのですが、俗語がぽんぽん出てくるし、ジャックの皮肉の効いたせりふがまた意味をとりにくいんですよね。)
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

最悪  奥田英朗著

 小さな鉄工所を営む川谷は窮地に陥っていた。不況のためいつ取引会社から切り捨てられるか分からない状況のもとで、身を粉にして働き、薄利多売で生き延びてきたというのに、近隣住民から騒音の苦情を受け、作業時間を減らすように要求されてしまう。従業員は外国人一人と極端な対人恐怖症の若者だけ。はんだ付けから納品まで、すべて川谷がこなしているという有様で、人手も足りなければ時間も足りない、正に追いつめられた状態だった。
 そんなとき川谷は、取引会社から設備投資の話を持ちかけられる。何千万もする機械を入れ事業拡大をする余裕などなかったが、融資も利益も確実であると約束されて川谷は話を進めてしまう。しかし、その話には裏があった。

銀行員のみどりは地元大手銀行のOL。荒れる異母姉妹に手を焼きながらも、平凡なOL生活を送っていたが、新人歓迎合宿で支店長からセクハラを受けたことから状況が一変。支店長のセクハラをもみ消そうとする部下や、反対にセクハラの事実を使って支店長を失脚させようとする敵対者達も現れ、被害者であるみどりの感情は置き去りにして、男たちの醜い争いが繰り広げられていく。

 パチンコやけちな盗みをしながら無為の日々を送っていた二十歳の和也は、ある日ちんぴらとつるんで工場からトルエンを盗み出すことに成功する。しかし、相棒のちんぴらが犯行のために用意した車がやくざのワゴンだったことから、運命は一転する。稚拙な犯行でワゴンを目撃され、警察に睨まれたことに業を煮やしたやくざは、和也達にとんでもない大金を要求してくる。その金を用意するために和也は更なる犯行を計画するが……。

三者三様の人生が、「最悪」へと向かい急速に転げ落ちていく。臨界点へと達した時、無関係だった三人の人生が初めて交差する。三人の出会いが引き起こす化学反応は吉と出るのか凶と出るのか。

 直木賞受賞作の「空中ブランコ」とはまるで雰囲気の違う作品。どちらかというと犯罪小説に近い。雪崩を起こすように崩れ落ちていく人生がテンポよく描かれている。この人の作品は会話がとても自然体なのが魅力。あと、不思議なのが、これまで三作読んだが、毎作雰囲気ががらりと変わること。どんなに作風を変えようとしても、その人の色のようなものが濃く出てしまうものだが、ちょっと別人の作品の様な感じがするくらい変わる。癖のない文章だから可能なのだろうか。

 

| | コメント (0) | トラックバック (1)

前々回の反省

またしても遅くなりましたが前々回の授業の反省です。

1 地の文から浮かないように
 人が使わないような珍しい訳語を思いついたり、最近覚えた言い回しなどがあると使いたくてしょうがなくなったりしますが、ぐっとこらえて地の文にあった訳語をつけなければいけません。これがなかなか出来ないんですが……。今回もこらえきれずやってしまいました。

2 具体化する
 ある「才能」のおかげでお金が稼げるという文脈で、何も考えず「才能」と訳語をあててしまいましたが、才能というのはかなり抽象的。後半部分を読んでからどのような才能なのか具体化して書いた方がよいと先生からのご指摘がありました。なるほどー。

3 garbage dumpster はごみ箱か?
 私はごみ収集容器としてしまいましたが、容器という言葉が引き起こす語感にもっと注意するべきでした。日本語で箱や容器というとかなり小さいものを連想させます。実際は大きなコンテナのようなものだそうです。違和感を感じながらも流してしまいました。ゴミ捨て場という風にごまかす手もありました。

4 enoughは「十分」とは限らない。
 清掃係がホテルの部屋を清掃して回るシーンで、ふと時計を見てひとつの部屋に12分もかけてしまっていたことに気づいた清掃係は、"enough"と言って次の部屋に取り掛かります。単語だけ見るととても簡単そうです。でもこの場合、(毎回反省していますが、)清掃係のキャラクターを良く考えて訳さないと齟齬が出てきてしまいます。この清掃係はお金を稼ぐために必死で働く女性という設定でした。首にならないようにいつも決して手を抜かずに仕事をしています。私は「もう十分だ」としてしまいましたが、そうなるとキャラクターにあわなくなってしまいます。綺麗になったかどうかを基準とするのではなく、時間を見ただけで、もう十分だろうというようでは、手を抜いているようですよね。先生は「のんびりしてはいられない」と訳していました。

5 原文が気に入らないからと言って変えない。
 原文を読んで、私だったらこうは言わないなという箇所があり、どうしても気になってしまってかなり意訳にしてしまいました。どこでどの程度意訳をやっていいのかまだのみ込めていません。先生ほどのツワモノならともかく、実力が伴っていないのに冒険しすぎはいけませんね。オリジナルを書いているのではなくて翻訳しているということを忘れずに。  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2005年10月 | トップページ | 2005年12月 »