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緋色の記憶 トマス・H・クック著

翻訳家は鴻巣友季子さんです。先生が「このひとはうまい」と仰っていたので取り寄せて読んでみました。格が違う!読み始めてすっかりおちこんでしまいました。文章に気品が漂っています。しかも、これを訳したときは、いまの私とそう変わらない年齢だったと知って、なおさら立ち直れない気分に。

しかし、読み進めるうちにそんな気分もどこへやら、物語に没頭してしまいました。訳がうまいと、訳者がすっと消えて物語の世界が立ち昇る感じがします。また作品自体がとてもよかった。純文学の香りが濃い、上質のミステリーです。

老弁護士ヘンリーが少年時代を回想する形でストーリーは進んでいく。ヘンリーの通うチャタム校に新任教師が赴任してきたことがすべての始まりだった。閉鎖的な村にやってきた美しく、自由奔放な女教師ミス・チャニングは、その魅力で、堅物の校長(ヘンリーの父)をはじめ、周囲の心をとらえていく。常識に縛られないその言動は、閉鎖的な環境に鬱屈した不満を抱いていたヘンリーにとっても、希望の光となっていく。だが、そんなミス・チャニングの恋が、後に、何十年と語り継がれることとなる悲劇、「チャタム校事件」を引き起こすのである。恋の相手は妻子持ちの同僚リード。ヘンリーは、現実という頚木につながれながらも、自分を貫いて愛を育むふたりを、わが身に重ね合わせてひそかに応援する。

遠い記憶の中に押し込められていた過去の悲劇の真相が、じわじわと解き明かされていきます。「真綿で首を絞められていくような」というとちょっと例えが変かもしれませんが、読んでいるこちらまで追い詰められていくような、なんともいえない不安な気分に陥っていきます。スリリングでした。話の展開は決してスピーディーではないのに、先が気になってページを繰らずにはいられませんでした。登場人物にも厚みがあり、少年のナイフのような感性で刻み込むように描かれた文章が美しかった。好きな作家がまたひとり増えました。そして好きな翻訳家も。原文の美しさを余すところなく再現した訳にただただ圧倒されました。原書とセットで買ったので、この夏は、この本の対訳勉強もしてみようかなと思っています(もちろん、下訳の復習もやったうえで)。

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