お当番でした。気合を入れたつもりだったのに、力を入れる場所を間違ってました。今回は、何がどう目に入ってくると順番として自然でスムーズか、という語順の問題ばかり考えていました。新しい作品の冒頭部分はとても大事です。語順もいいけど(しかも、いじりすぎて妙なことになってるし)、肝心なところで読み間違えてしまってはどうしようもありません。小手先だけでいじり回さず、もっと、大きな目で作品を捉えられるようにならないと。
1 冒頭で気をつけるところ
この冒頭部分、自分でもとても訳しづらく、何パターンかつくってプリントアウトしていました。登場人物の属性の描写から、現在の行動に移行するところがどうしても上手くいかない感じがして、いじり回してましたが、まるで見当違いのこだわりだったみたい。
冒頭部分には、登場人物が次々登場してきます。初対面は肝心です。作者がその登場人物をどう見せたいのかきちんと考えること。そこから形容詞の方向性もすべて決まってきます。おおもとをつかむこと。
今回の場合、のっけから犯人が登場してきます。それをいかに犯人らしくなく訳すかがポイントでした。最後まで読んで犯人なのはわかっていたのに、そういう気の回し方がまったく出来ませんでした。自分の思い込みだけで、訳の方向性も決めてしまいました。良い読者であろうとするだけでは足りないのかも。少なくとも、受け身の読者ではだめ。作者の目線はどうしても必要です。冒頭部分には伏線が張ってあったりすることもあり、作品のエキスがつまっているので、とにかく大事に訳すこと。
2 なじみのない言葉は説明するか、変える
またやってしまいました。「トーチソング歌手」という言葉。聞き慣れない言葉だとは思ったのですが、自分が知らないだけでみんな知っているのかと・・・。私以外の生徒さんは皆、うまく工夫されていました。がっくり。読み手にわかるように訳さなければ、描写としての意味がありません。手を抜かないこと。
3 表現の強弱
英語の表現の強さに引き摺られないこと。今回の課題のなかでも、幾つか、その場面には強すぎる感じがする表現がありました。(tore off, march, barkなど) 引っ張られずに訳すことが出来たものもありましたが、肝心なのはなぜその強さで訳すのかということです。自分のなかにその根拠をしっかり持っていないと、一定のトーンで訳文をつくることができません。
表現の強弱の問題もやはり、作者がキャラクターをどうみせたいのかということに関係してきます。問題となったのは、登場人物Aが登場人物Bに向かってbarkした、という場面。直訳だと怒鳴りつけるですが、大事なのはこの二人の関係でした。私はここだけを見て、サボっている部下を怒鳴りつける上司という単純な構図を描いてしまいました。最後まで読んで、そんな単純な関係ではなく、二人の間にはなにか通じ合うものがあったということはわかっていたはずなのに・・・(後でそういう場面がいくつも出てきます)。そうであれば、barkはそれほどきつい訳になるはずがなく、その後に来る科白も当然もっと柔らかいものになります。近視にならず、もっと俯瞰して見ること。
4 詰めが甘い
(夜の)一時をすぎ、ホテルの部屋は3分の2が"residential"だった、という文章。residentialが「居住者用」という意味なのか、「人が泊まっている(埋まっている)」という意味なのか、悩みましたが、この周辺の文章が、一貫して「ひとけがないこと、静かなこと」を描いていたので、居住していれば夜中の出入りも少なく静かだろうと考え、前者を選びました。そこまではOKでしたが、その先の詰めが甘い。きちんと砕いて「長期滞在者用」とすべきでした。後で短期滞在者用という言葉が出てくるのもみつけていたのに。なぜ手を抜くのか・・・。
5 違和感を感じたとき、いつでもどこでも、わすれないうちにメモをとる
クラスメイトに最後に指摘された箇所。ホテルのフロント係が警備員に、廊下で騒いでいる客を何とかして来いと言うシーン。原文は”get him out of the corrider!”となっており、直訳すると「つまみ出せ」になるのですが、ホテルに泊まっている客を「つまみ出す」というのはどうか?というご指摘でした。最初に思ったのが、「しまった、忘れてた」でした。机に向かっていないときに、「そういえば、ホテルから追い出すつもりまではないのに、つまみ出せって言うのは変だよね、直しておかなくちゃ」と思っていた箇所でした。訳文に向かっていないときにも違和感がやってくるときがあります。後回しにしないでその場でメモをとっておく習慣をつけなければ。気がついたときに直すというのはどんな仕事でも基本ですよね。職場でも同じような失敗をよくしています。
6 固有名詞の発音
下訳をする際、三省堂の「固有名詞英語発音辞典」を使うよう、先輩下訳者さんに指示されていたので、授業でも使っているのですが、情けないことに発音記号の読み方に自信がなくて、ついついネットでも確認してしまいます。ネットで出てこなくても、辞典の方を優先すること。
7 黒髪
細かいところですが"long black-hared man"という文章。 「黒髪を長く伸ばし」と訳したのですが、なんとなく女の人っぽい気がして違和感を感じていました。いろいろこねくり回したあげく、解決できずに放置。先生は黒い髪とされていました。ああ、それでいいんですよね。何を悩んでいたんだろう。
8 一文にする手
同じ言葉を繰り返さないというのも、下訳でさんざん反省したので、今回気をつけたつもりだったのですが、どうして上手く処理できない箇所がありました。"The noise hit him like a sudden wind. The walls echoed with it" 一文目の主語が音、二文目の主語は壁になっていますが、スピード感も大事なシーンなので、「音」で統一したいところ。主語をダブらせたくはないけれど、二文目を主語なしにして訳すとどうも違和感が。先生の訳をみてスッキリ。一文にするという手は、分かっていたつもりだったんだけどなー。思いつきませんでした。
9 キャラにあった修飾語を
"he said rapidly" 客の不満顔があちこちから覗いている中、ホテルの警備員がなだめるというシーンだったので、つい「急きたてられるように言った」としてしまいましたが、このキャラはそんな周りに左右されるような軟弱なタイプではありませんでした。どちらかというとマイペースで飄々としている感じ。工夫しようというところまではいいのですが、キャラに沿わない訳をあてるくらいならあっさり流す方がましです。先生は「てきぱきと」とされていました。納得。
10 半ダースの部屋
"half dozen doors were open" 直訳は「半ダースの扉が開き」ですが、日本人に、ダースの感覚はないし(12や6に特別な思い入れはないんじゃないかと)、どうしても違和感を感じるので「部屋の扉があちらこちらで開き」としました。これはOKでした。
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