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「椿山課長の7日間 浅田次郎著」読了、&ふと感じた翻訳への畏れ

ああ、また罠にハマったー。泣かせるんだろーなーと予測はしていましたが、作者の思惑通り、滂沱の涙 ラストのほうは文字もろくに読めない有様。あっさりとハメられちょっとくやしい気も。浪花節的なところが、文学通には敬遠されてしまうのかもしれませんが、エンターテイナーとしてはやっぱり一流だと思います。

キャラクターはある意味類型的です。主人公たちの性格もかなりわかりやすい。仕事の鬼で家庭は妻にまかせっきりの熱血デパートマン、任侠と渡世の世界に生きる、古きよきヤクザ等など・・・ひとことで、ある程度書き表せてしまうくらいわかりやすい。でも、すごいのは、その類型に向かってとことん磨き上げていくところ。せりふ、行動、嗜好など、ディティールをすべて、同じベクトルにあわせて積み上げることで、キャラクターを明確に浮かびあがらせている。

どのエピソードも無駄には書かれていない。椿山課長が新婚旅行のワンシーンを思い出す場面では、さらりと、ふたりが寄り添っていたハワイのビーチが人工のものであることに触れられている。その先の結婚生活が、偽りのものであることを暗示するひとことだ。読み飛ばしてしまいそうな一文にも、意味がこめられている。しっかり計算されている。怖い作家だー。思わず、下訳を終えたばかりの某作家の文章を思い出してしまった(雰囲気はだいぶ違うけど)。この本を訳す翻訳家は苦労するんだろうな。同情してしまう。コミカルで思わずにやりとしてしまう文章も、きっと再現が大変だろう。誰だかわからないけど、君の苦労は良くわかるぞー。

それにしても、こうして母国語で良い本を立て続けに読んでいると、外国人がそれを読んで、ネイティブと同じように深く味わい、魅力を損なわずに再現するなんて、(ほんとに一握りの才能あふれる翻訳家でないと)無理なんじゃないかという気分になってくる。なんだか、無謀なチャレンジをしているような、風車に立ち向かうドンキホーテの気分。

もしわたしが翻訳家で、ものすごーくいい本を訳すチャンスに恵まれて、でもその魅力を損なわないだけの力量がない場合、どうすればいいんだろう、と愚にもつかないことを考えてしまった。でも、これはかなりのジレンマだろうなー。惚れ込んでしまうほどのいい本、出来れば自分が訳したい、でも力量不足で、自分が訳せば大好きな本の魅力を損なってしまうのは目に見えている・・・・。もしかしたら、血の涙を流しつつ、他のもっと実力のある方にお願いしてしまうかも・・・。その方がその本のためには幸せだものなあ。(ありもしないことで悩むとは我ながらひま人・・・

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